\\\ ホンモノを使うと、出費が減る ///

たまTSUKIは、今では堂々と「オーガニック 」を名乗っていますが、開店当時は食材のオーガニック率が低く、誇れるものはお酒の品揃えだけでした。
鶏肉は、国内産を選んでいたものの、市販のブロイラー（過密状態で飼育することを目的に品種改良された食肉用の若鶏。世界市場の90%を占める。驚異的な成長力の代わりに病気への抵抗力が弱いため、大量の化学物質を投与。生きものとしての尊厳がない育て方に、私は違和感を持っています）でしたし、調味料はなるべく安全なものを選ぶように心がけていましたが、パーフェクトではありませんでした。
ある日、知人が経営するお店に食事に行きました。
そこで頂いた鶏肉と白菜の煮物は、驚くほどにシンプルながら、透明感のある味でとても美味しいものでした。
聞くと、放し飼いの地鶏と自然農（森に生物が育つように、土を耕さず、自然界の流れに任せて育てる農法）の白菜を煮込み、伝統製法の醤油を垂らしただけだというのです。 
私は、店にある食材で同じように作ってみました。しかし、全く味が付きません。
仕方なく、様々な調味料を数種類足して、やっと味が近づきました。
しかし、それは近づいただけで、美味しいとは思えません。
何だか余計な味がたくさん邪魔していて、本来の白菜と鶏の旨みが全く感じられないのです。
そこで地鶏と自然農の白菜、伝統製法の醤油を買ってきて、再度同じように作ってみました。
すると、あのときと同じような、透明感のある美味しい煮物になったのです。
正直、驚きました。
こんなにも違うものなのか！とこれをキッカケに、導かれるご縁を大切にしながら、ゆっくりゆっくり、既存の仕入れをホンモノに入れ替えてゆきました。
気付きは、それだけではありませんでした。
ホンモノに替えてゆくと、厨房にあったたくさんの調味料に出番がなくなります。
例えば、ホンモノの塩だけで、ホンモノの味噌だけで、ホンモノの醤油だけで、美味しい味付けができるなら、他に調味料を入れる必要がありません。
結果、厨房にあったたくさんのモノが減っていきました。
モノが減れば、汚れる場所も少なく、片付けも掃除も楽です。
ホンモノは値段が高く、コストが増えると思っていましたが、必要のない調味料を買う必要がなくなったのでトータルコストはあまり変わりませんでした。
野菜にも同じことが言えます。
よりいいものを使うようになると、単体のコストは上がりますが、安全安心の野菜なら葉っぱ、皮、根元まですべてを使うようになります。
丁寧に使い切ります。
だからゴミも減ります。
仕入れルートがシンプルになります。
必要な野菜が手に入らなくても、それは自然界に準じたことだから当然のこと。
あるもので代替して料理をすればいい。
無理に仕入れる必要がないので、八百屋を梯子して探し歩くこともしません。
トータルコストは、結局あまり変わりません。
調味料などが減った分、買い物回数も減る。安い仕入れを求めて探し回る労力も必要ない。
メリットのほうが、遥かに大きいことに気付きました。
オーガニックやホンモノは高い。
世間ではそう考えがちです。
しかし、実は出費は変わらないと思います。
オーガニックの食材を購入している家庭と普通の家庭のエンゲル係数（家計に占める食費の割合）は、同じだったという調査データを読んだことがあります。
美味しいし、健康だし、安全だし、手間が減るし、ゴミも減るし、キッチンも綺麗になる。
医食同源というように、美味しい食事で病気知らず、医者要らず、薬要らず。
ますます出費は減ってゆきます。
そして何より、未来に残したいホンモノを作るビジネスに、自分の払ったお金が役立ってゆく。
これが、一番嬉しいことです。

『減速して自由に生きる ダウンシフターズ』髙坂勝著 ちくま文庫
p141「ホンモノを使うと、出費が減る」より引用